木がいっぱい、葉っぱもいっぱい

エゴサ突撃型カスタマーサービス、やめたほうがいい

Twitterが流行ってからかれこれもう10年以上経つ。ライトにアプローチしやすく、フィードバックもすぐに得られるからだろうか、いまやほとんどの企業がTwitterに「公式アカウント」や「広報アカウント」なるものを持っているような印象を受ける。

企業のアカウントは大きく二つのタイプに分類できる。一つは、「このアカウントは問い合わせを受け付けるチャンネルではないので問い合わせには応じない」と明記していて、一方的に情報を垂れ流すだけのアカウント。もう一つは、ユーザーにからのリプライに応答したり、自社の製品やサービスに対するユーザーの反応をリツイートしたり、あるいは有名人と絡んだり、簡単に言えば、コミュニケーションを行うアカウントだ。

わざわざインフルエンサーという立場の人に金を払ってモニターになってもらう時代だ。消費者の「口コミ」「レビュー」が売上や知名度を左右することはよくあるのだろう。だから感想ツイートをリツイートしたり、それに応答したりという双方向的なアプローチは宣伝広報活動という意味では理にかなっているし、Twitterが元来そういうことをやるのに適したプラットフォームになっているのだから、それを利用しない手はないはずだ。しかも、リツイートしたりリプライを送ったりすること自体に金がかかるわけではない。タダで広告が一本打てるようなものだ。

そういう宣伝広報活動の場合、もちろん売上を少しでも伸ばすための宣伝広報活動なのだから、選択的にポジティブな口コミしか取り上げられないケースがほとんどだと思う。そしてポジティブな感想をつぶやいている人はその時点でその企業ないしは製品に一定の好感を持っているということだから、いきなりリツイートされたりリプライが飛んできたりしても特に悪い気はしないのだろうと推測される。

 

しかしここ数年、そのような単なる宣伝広報活動を目的としているわけではない企業アカウントがちらほら見られる。「カスタマーサービス」というアカウントだ。

宣伝広報活動と、カスタマーサービスはまったく異なる業務であることは自明だ。前者はとにかく商品やサービスを周知し、知らない人に対してうちはこんなにいいものを売っているんですよというアピールすることが目的。後者は、(大抵の場合)その会社の製品やサービスを使用して何か疑問点が生じたり、困った事態になった人の相談を受け、問題を解決することが目的だ。

つまり、宣伝広報活動と違って、カスタマーサービスは基本的に、(ほぼ全てのケースにおいてすでに製品やサービスを購入している)顧客の側で何か問い合わせ事項なり問題なりが発生し、顧客の側から問い合わせることによって初めて動く。本来そういうものだったはずだ。

だが、最近、こちらが能動的に問い合わせ等をしていないのに、虚空に向けてつぶやいているだけのこちらの些細な感想や愚痴をエゴサーチをして突撃してくる「カスタマーサービス」のTwitterアカウントが散見される。はっきり言って、とても不愉快だ。

先日、ソニーのワイヤレスヘッドフォンをMacBookと接続すると左右の音量バランスが偏り、モノラル出力っぽくなってしまうという現象が起こった。どちらも買ってから日が浅いし、ほかの機器を接続する際には両者とも正常に作動する。たぶん故障ではなくて、どこか設定がおかしいのだろう、まあそのうち原因がわかるさ(結局、Mac側の音量バランスの設定がなぜかずれていたと今わかった。そんな設定項目があることも知らなかったが)、という感じで、特に深刻にとらえていなかったが、何の気なしに、軽い愚痴のような感じでTwitterにつぶやいた(冗談でアップルとソニーの関係性ゆえか? みたいなことも書いた)。

そうしたら、ソニーカスタマーサービスを名乗るアカウントからいきなり、「型番はわかりますか? こちら(URL貼り付け)のリセットを試してみてください云々」という感じのリプライが飛んできた。

強調しておくが、私はそのアカウントをフォローなどしていたわけではないし、問い合わせが目的でそのアカウントにリプを送ったわけでもない。ただご飯が美味しかったとか、この本はつまらなかったとか日々のどうでもいいことをつぶやくのと同じノリで、音量バランスおかしいなーなんでだろう、と虚空に向けてつぶやいただけだ。

その虚空に向けてのつぶやきをわざわざサーチしてきて、調べれば誰でもわかるようなリセット方法(厳密には、その方法を知るためのURL)をご丁寧に教授してくださる――なんというか、ありがた迷惑というか、頼んでないから放っておいてくれと思うのは私だけだろうか。

本当に個別の問題を解決する意思があるなら、状況や条件などをしっかり聞かないと話にならない。「型番はわかりますか」とのことで、もし私が答えていればそういう方向に話が広がる可能性もあったのかもしれないが、ほかにも、製品をどこで買ってどこで使っているか、Macの型番、接続して何のソフトで何を聴いていたか、画面表示はどうなってたか、いつからどのくらいの頻度で問題が起こっていたのか……などなど、共有しなくてはならない情報はたくさんあるはずだ。それを1回140文字のやりとりでうまくできるはずがないし、個人情報に関わる事項も必然的に開示することになるから、Twitterのリプライでは不可能だ。結局、メールか電話でお問い合わせください、となるのだろう。それが必要なら最初からこちらでやっている。つまり、Twitterエゴサして突撃してくるという行為には、問題解決という本来の目的にとっては何の意味もない。

また、こうした唐突なリプライは、「些細な愚痴でさえも全部監視しているぞ」という圧力にも感じてしまう。おそらく、実際そういう側面もあるのかもしれない。たしかに、私のツイートを見た誰かが早とちりして「そうか、ソニーのヘッドフォンはアップル製品と相性が悪いのかー。じゃあ買うのやめよかな」などと思ってしまったら、顧客の可能性を一人分失うことになる。

だが、私は別にそんなふうに断定するようには書いていないし(たしかにアップルとソニーの関係性には言及したが、理解力のある人間なら冗談だとわかるというか、そんなことを真に受けないだろう)、それで勘違いする人がいるとしてもそれは私の責任ではない。それに、もっと重要な要素として、私は有名人でも公人でもなんでもなく、フォロワーも20人ちょっとしかいない。こんな「一般人の弱小アカウント」のつぶやきが決め手になって、じゃあこの会社の製品を買うのはやめようなどと考える人が出現する可能性がどれほどのものか考えてほしい。おそらく宝くじで一等を当てるよりも低いだろう。

要するに、こうしたエゴサ突撃型のカスタマーサービスは、問題解決が目的にせよ圧力をかけるのが目的にせよ、効果が薄く、意味がないのだ。それどころか、突撃された側に不快感を感じさせるだけなので、企業側にとっても消費者にとってもマイナスにしかならない。カスタマーサービスエゴサ突撃で「助かりました! ありがとう!」となる人間、おそらくほとんどいないのではないかと思う。大多数の人は、「うわ、なんかいきなりリプライきた、メンドクセ」「こんなのまで監視してるのか、怖……」という感想しか抱かないはずだ。

 

こういう無意味どころか、自分にとってもマイナスにしかならない行為がなぜまかり通っているのか、不思議でならない。

上記の例よりも、もっと愚かしく、笑ってしまうような例もあった。少し前に、これまた戯れで私はTwitterに「Amazonのほしいものリストに入れた商品が全然値下がりしないなー。もっと安くなってくれー!」というようなことを書いた。上記のソニーの例はまだ実際に製品を使用する上で問題が存在したといえばそうなのだが、こちらの例は誰が見ても、なんか戯言を言っている奴がいるな、と思うだけだろう。

それになんと、Amazonカスタマーサービスからリプライがきたのだ! 「申し訳ございません。ご期待に添えるように善処いたします」的な内容だったと思う。機械による定型文かと思ったが、それにしては出来すぎているし、末尾に担当者の名前も入っていたので、おそらく人力だろう。(ちょっと疑問に思って調べてみたのだが、別の人たちに対する返答内容からも、やはりほぼ確実に人力だろうとわかった)

一瞬、「え、それ本気で言ってるの? 私のほしいものリストの商品を値下げする権限があなたたちにあるんですか? だったら今すぐ上の人に掛け合ってもらえます? 安くなるとうれしいので」と陰険なリプライをしてやろうかと思った。やらなかったけど。

こちらの例は本当になんかもう、カスタマーサービスが何がしたかったのかまったくわからない。解決すべき問題がそもそも存在しなければ、圧力をかけるべきことでもないからだ。

わからないが、リプライを送ってきた担当者もそんなことは承知だが、もしかしたらリプライを送った件数に応じて報酬が増えるようになっていて、いわばヤケクソの点数稼ぎをしていただけかもしれない。そうだったとしても、このシステム自体が愚かであることに変わりはない。担当者には、もっと別の、虚しくならない仕事があるんじゃないですかね……と言いたくなるし、企業目線に立ったら、そんな無の行いのために人員と設備に投資するのはわずかでもやめたほうがいいよ? と言いたくなる。

 

こういうことの真の目的が何なのか、私には知るよしもないし、もしかすると私のまったく知らないところでは、多くの客に喜ばれているのかもしれない。だが、こうした「カスタマーサービス」のエゴサ突撃は、少なくとも私にとっては、無意味なこととしか思えないし、もっと言うなら、病的な異常な行為にしか思えないのだ。鍵をかけていないTwitterは公共空間だから別にエゴサするのも突撃するのも勝手だろう、公共の場で発言したお前が原因だ、という意見ももっともだ。しかし、もし同じ公共空間である駅や公園で、友達同士である製品やサービスの話をしているところに、いきなりその企業の担当者が「お困りですか?」と割って入ってきたら、普通はどう思われるだろうか? 歓迎する人などほとんどいないのではないだろうか。

 

繰り返しになるがまとめよう。私はこういうエゴサ突撃型の「カスタマーサービス」のあり方は百害あって一利なしなので即刻やめるべきだと思うが、どこかでは有益だ、役に立つという研究・観測結果が見られるのかもしれない。それはそれで興味深いので、ぜひ知りたいところだ。もしかすると、こんなことを考えているのは私のような陰険な人間だけかもしれない。そうだったらむしろおもしろいのだけど。